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1. なぜビル風は発生するのか? 高いビルが無いときは風は自然に流れている

 風が吹くとビルの足もとに強い風、ビル風が発生しますが、その原因はなぜか?科学的にご説明しましょう。ここでは、ビルが建設された時に、そのそばにビル風がどのように発生するか、段階的にご説明します。

1. 初期状態として、ビルの無い場合を想定してください。低層住宅が並んでいるような地域では、下の図のように風は建物の上を一方向に風が吹いています。この場合、風速が特別大きくなることはありません。

ビル風の流れ1 高い建物が無いとき、風は一方向に一定の速さの流れとなる

 このとき、上空まで風速を見てみますと、やはり風はほぼ同じような風速で、一方向に流れています。どの断面できっても同じような風が観測されます。

 (実際には、上空の風速は地上付近よりやや早くなりますが、この影響については後ほどご説明します。)

ビル風の流れ2 高い建物が無いとき、風は上空まで一方向に一定の速さの流れとなる

2. 建物が出現すると風の流路が遮られる

 ここに建物が出現しますと、風の流路に当たる部分では、風が直進できないため建物をよけて流れることになります。

ビル風の流れ3 高い建物が出現すると、風はまっすぐは進めない

3. 建物に風が近づくと、その手前で風は速度を緩めて向きを変える

 風の流路に当たる部分に建物が出来ますと、建物正面に当たる風は通り抜けられないため、風は建物の手前で左右、上向きに向きを変えます。下の図の水色の線が「風の流れ」を表しています。

 このとき、建物の風上側の面では風がよどんで風速を落とすと共に、空気の圧力が少しだけ高くなっています。実はこの圧力がこの後ビル風発生の大きな役割を果たしています。一度蓄えられた空気の圧力のエネルギーは、建物の角を通り過ぎた後にエネルギーが発散されるのです。

ビル風の流れ4 高い建物が出現すると、風は建物の手前で左右、上向きに向きを変える

 この圧力エネルギーと速度エネルギーの関係は、いつも和が一定になるようになっていて、ベルヌーイの定理と呼ばれる流体に関する重要な法則となっています。

ベルヌーイの定理:  圧力エネルギー+速度エネルギー=一定

4. 風が建物の風上側の角を通り過ぎた後は速度を増す。

 風は建物の風上側で一度速度をゆるめ、やや向きを変えて、建物の前面の角を通り過ぎます。このとき建物正面から脇によけた風①と、まっすぐに吹いてきた風②とが合わさって風速が増します。こうして建物の側面に強風が発生します。これがビル風の正体です。

 この現象については、前述の風の圧力エネルギーを元に別な説明も出来ます。建物の風上側で一度蓄えられた空気の圧力のエネルギーは、建物の角を通り過ぎた後にエネルギーが発散されて速度のエネルギーに変換され、風をジェット噴射のように加速します。こうして建物の側面には風速の早い場所が出来ます。これがビル風です。

 ビル風は更に風下に流れていくと、風のエネルギーは渦となって消耗され、やがてビル風は消えていきます。

ビル風の流れ5 建物の風上側の角を通り過ぎると、風は速度を増す。これがビル風の正体。

5. 上空では風速が速いので、高層ビルではさらに大きな風のエネルギーを受ける

 ビル風の風速は建物の高さと相関が高いと言われています。なぜならビルに吹き付ける風は、下図のように高さと正の相関がある(地上より上空の方が風速が速い)からです。一般に市街地の風は高さの0.2〜0.25乗に比例しており、地上1m付近での風速に対して、高さ100mでは2.5〜3倍程度の風速と無視できないくらいの大きな風速になります。このため高層建築ほど受ける風のエネルギーは大きくなります。


ビル風は建物の高さと相関が高く、一般に市街地の風は高さの0.2〜0.25乗に比例しており、地上1mでの高さの風速が1m/sあるとすると、高さ100mでは1.78m/s程度であると考えられます。このため高層建築ほど受ける風のエネルギーは大きくなり、その結果、強いビル風を発生させる。

図 高層建築に吹き付ける風の風速分布

6. 高層ビルに風が当たると建物の風上側の圧力はさらに高くなり、ビルの横に強風が吹き出す

 高層ビルでは、上空の大きな風速を受けるので、前述のビルの風上側の圧力もさらに大きなものとなります。その結果、高層ビルではビルの足もとまで圧力が高くなってしまい、この圧力エネルギーが元になって、風上側の角を通過した後に、建物の横に強風が発生するのです。こうした原理から、高層ビルほどビル風問題が大きいことが説明できます。

 もう一度整理しますと次の下図のようになります。

ビルに風(上空は強い風)が吹き付ける。風速が圧力に変換されて、圧力の高い空気の塊ができる。圧力は建物の上部だけでなく、低層部まで均等にいきわたる。建物の前面の3辺(左右の角、建物の軒)から風が吹きだす。地上付近の左右の角では、(圧力エネルギーが速度エネルギーに変換されて)強い風が吹きだす。

 これがビル風となって地上付近にいる人に感じられるということです。


ビル風現象は「ベルヌーイの定理」からも説明可能です。「圧力水頭,速度水頭の和は一定」なので、風速が低減し空気がよどんでいる建物風上側では圧力が高くなっています。この高い圧力の空気、すなわち建物風上側の角から強風が吹き出します。これがビル風です。

図 風が吹き付ける建物の前面にできる圧力の高い空気だまりが風を吹き出す

 建物側面の風速増加域は、地上部付近だけでなく、建物の上層階部分でも確認できます。マンションの角部のバルコニーに立つと角を境として強風を体験でき、その現象は、上図のようなモデルを当てはめて説明可能です。

7. 「吹き下ろしの風」がビル風の原因ではない

 吹き下ろしの風がビル風の原因と思われている方が多いようですが、建物近傍で吹き下ろしの風が観察されるのは、建物の風上側の正面だけです。ここは前述の通り、弱風帯です。つまり

「吹き下ろしの風が勢いにのって、建物側方で急降下して、地上付近のビル風となる」わけではない。

あるいは

「ビルの近傍では、吹きおろし(鉛直方向下向き)の強い風が吹く」わけではない。

ということです。風洞実験で下図のような気流は観測されたことはありません。風洞実験、コンピュータシミュレーションのいずれの結果においても、風速増加域の風はほとんど水平に近い角度です。

ビル風=吹き下ろし と考えている方が多いようですが、全く誤りです。風洞実験、コンピュータシミュレーションのいずれの結果においても、ビル風の主体である風速増加域においては風の方向はほとんど水平に近い角度として観測されており、鉛直方向下向きの強い風は存在していません。

図 風が建物の近くで急降下してビル風となるわけではない

8. 建物周りの風速分布のコンピューターシミュレーション結果

 高さ45m(15階建て相当)のビルに到来する風の流れを次の動画でご覧ください。ここでわかることは次の通りです。

  1. 建物の風上側は風速が遅くなり、建物側方では風速が速くなっている。
  2. 建物の風上側の前面では風向は下向きか逆向きとなっており、風速はあまり速くはない。
  3. 建物側方では風向はほとんど水平に近い。
  4. 建物側方では、上空と同じ、大きな風速となっている。
  5. 建物側方で吹き下ろしに相当する下向きの風は吹いてはいない。

  15階建てビルに到来する風の流れ(クリックすると動画が見られます)

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