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風害の基準とは

 風環境について議論するときに、風によって生じた変化が「風害」なのか否か疑問になる時があります。

そこで風害の定義、基準となるものを探ってみました。すると下図のように3つの分類が考えられます。

風害の基準の3分類
  1. 災害時の建物被害認定基準
    台風や突風によって建物が損壊した場合に、その被害を認定する基準です。災害時の基準ですので相当な被害の大きさとなり、風害現象として理解しやすいものです。ただし、あくまでも災害によるものであって、周辺の高層ビルなどとの関係(ビル風か否か)はわかりません。
  2. 国土交通省が定めた道路構造物に関する風害基準
    道路建設では道路だけでなく周辺の施設も合わせて設計監理するため、道路に不可欠な換気塔なども含まれます。道路換気塔は高層ビルに近似した構造物であり、その構造物による風環境影響の評価項目が「風害」として定められています。このほかにも環境省が定める環境影響評価にも「風害」はありますが、飛行場など特に大規模な施設が対象であるためここでは除外します。
  3. 風環境で紛争になった場合の風害の予測および事後検証
    風害についてマンションディベロッパーと近隣住民らが紛争になった場合には、建物の損害だけでなく、歩行者環境や日常の生活環境への影響まで含まれる場合があります。この場合、実際にそれら日常生活への影響を評価するのではなく、風環境評価を行って、風環境の変化を判定します。この風環境評価の尺度としては、村上法と風工学研究所の方法の2つの方法が用いられています。

災害時の認定基準

 強風による建物等の被害を測る基準として、政府が定める「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」がありその中に「第3編 風害による被害」が定められています。

 この基準は主に建物保険の認定をするための基準であって、全壊、半壊などの判定や、判定の際にどこを見るかといったポイントが示されています。強風で顕著な被害はかわらの飛散でありその判定は次のように定められています。

程度 損 傷 の 例 示 損傷程度
棟瓦(かんぶり瓦、のし瓦)の一部かすれ、破損か生じている。 10%
棟瓦のずれ、破損、落下が著しいか、その他の瓦の破損は少ない。
一部のスレート(金属製を除く)にひび割れが生じている。
浸水により屋根葺材等に浮きが見られる。
屋根の一部に飛染物による軽微な衝突痕がある。
25%
棟瓦が全面的にずれ、破損あるいは落下している。
棟瓦以外の瓦もずれが著しい。
浸水により屋根断熱材・屋根防水材の機能損失が見られる。
浸水によりスレート等屋根葺材の損傷又は脱落が見られる,
浸水により下地材の損傷が見られる。
金属板葺材の半分程度かはがれている。
屋根の一部に飛来物による突き刺さり、貫通痕がある。
50%
屋根に若干の不随が見られる。
小屋組の一部に破損か見られる。
瓦かほぼ全面的にずれ、破損又は落下している。
スレート(金属製を除く。)のひび割れ、ずれが著しい。
金属板葺材のジョイン卜部に、はがれ等の損傷が見られる。
屋上仕上面に破断や不随が生じている。
屋根の大半で多数の飛来物による衝突痕、突き刺さり、貫通痕がある。
野地板の一部かはがれている。
75%
屋根に著しい不随が見られる
小屋組の損傷か著しく、葺材の大部分が損傷を受けている
屋上仕上面全面にわたって大きな不随、亀裂、剥落が見られる
屋根の全面にわたって多数の飛泉物による衝突痕、突き刺さり、貫通痕かある
野地板の損傷が著しい
100%

構造物の風環境基準

国土総合研究所では道路に関する環境影響評価の技術手法として

「3.強風による風害 3.1 換気塔等の大規模施設の設置に係る強風による風害」

を出しています。換気塔とは地下式道路に外気を取り入れ、排気する換気のための太い煙突のような構造物であり、外観は下図に示すように高層ビルに似ています

道路の換気塔

 このような構造物に対して「風害」について次のように記されています。


3.強風による風害

3.1 換気塔等の大規模施設の設置に係る強風による風害

 換気塔等の大規模施設(以下、「大規模施設」という。)の設置に係る強風による風害についての調査は、予測に必要な気象条件の設定を目的として、気象を対象に行う。予測は、既存の類似風洞実験結果を用いる方法(注1)により大規模施設の設置後の風環境を対象に行う。予測結果から、環境影響がない又は極めて小さいと判断される場合以外にあっては、環境保全措置の検討を行う。評価は、事業者により実行可能な範囲内で回避・低減されるかどうかについて、見解を明らかにすることにより行う。

 なお強風による風害とは、大規模施設周辺の気流が、剥離風や吹き下ろし等の現象により、周辺地域の居住者及び歩行者等に対して生活環境上の影響(注2)を与えるものである


解説


 

(注1)既存の類似風洞実験結果を用いる方法

 風洞実験で過去に測定した類似の寸法の建物のデータを用いて、目的とする建物の周辺の風速を予測します。参照する過去のデータとは、建物の高さ、幅、奥行きが10m×10m×10mサイコロ状から、高さ50mという高層建物まで数多くの建物形状について実験され、そのデータが公表さています。

 この方法では、単体建物の周辺の風速はわかりますが、建物が複数存在したり、建物の風上に別な建物があるとその建物による影響を受けて、必ずしも正しい評価が出来ません。またデータは風速値の建設前後比、すなわち建物がないときの風速に対する、建物が建設された後の風速の比で表されます。あくまでも建物建設前後で風速が何倍になるかという倍率でしかなく、その絶対値の風速の評価は出来ません。このため、この建設前後比が1以下かまたは1に近い場合にのみ影響がないといえますが、1を超える場合は、コンピューターシミュレーションや風洞実験などのより詳しい調査が必要となります


 

(注2)剥離風や吹き下ろし等の現象により、周辺地域の居住者及び歩行者等に対して生活環境上の影響を与える

 建物に風が吹きつけたときに、その風下側では建物による風(ビル風)が生じ、その主なものが剥離風と呼ばれる建物側面からの風です。この風が周辺地域の風速を増し、居住者や歩行者等に対して生活環境上の影響を与えることとなります。具体的には傘がさしにくいとか、風が強くて歩きにくいといった現象です。こうした影響を評価するために村上法風工学研究所の評価尺度が用いられており、これらの評価尺度で「住宅地の風環境に相当する」と判断された場合には、居住者や歩行者等に対する生活環境上の影響は小さいと判断されるようです。

 


まとめ


 結局のところ風害とは、

  •  周辺地域の居住者及び歩行者等に対して生活環境上の影響を与えるものすべてをさすものであり、実際的な風による建物の損壊などを限定できるものではない
  • 対処方法、すなわち風害の有無の判定は、がないことを言うには次の方法による

ということです。

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